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2016年1月25日

SIGGRAPH Asia 2015 (Technical Papers) 参加報告

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|◆ SIGGRAPH Asia 2015 (Technical Papers)
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幸村 琢 (University of Edinburgh)

 SIGGRAPH ASIA2015は神戸のコンベンションセンターで開催された.Technical
Paper セッションはアメリカで開催されるSIGGRAPHとともにコンピュータグラフ
ィックスの最高峰の論文発表の場であり,毎年,多くの論文が投稿されるが,今回
は304本の論文が投稿され,その内,84本が採択された(採択率27.81 %).私も
論文を落とされているが,日本のCG界の父,西田友是教授によると,落とされて
も参加して悔しさを骨に染み渡らせるのが大事とのことである.またお世話になっ
ている東北大学の北村喜文教授がジェネラルチェアをやる晴舞台なので英国より来
日した.
 テクニカルペーパーのセッションは大体二つか三つのパラレルセッションであ
ったため,興味があっても参加できないセッションがあり,少々残念であった.シ
ーグラフの衰退が叫ばれて久しいがそれでも参加者はまだまだ多い.ファーストフ
ォワードは途中でパワーポイントが中断してしまったが,論文の内容が短い時間で
わかり,非常に有意義である.パイを顔に投げつけたり,コスプレしたりして盛り
上げてくれている人もいた.
 論文の分類を大雑把に分けると3次元形状関係が38,アニメーション関係が20,
イメージビデオ処理が10,そしてレンダリング関係が10,そして残りその他といっ
たところである.三次元形状関係は純粋な幾何学的研究に加えて3Dプリンティン
グ,形状データの取得,不完全部分の推定,人工物物体を使ったシーンの生成,解
析といった新たな方向性が近年見出されてなかなか繁盛しているようである.アニ
メーション分野もこれまでも色々やられているがなかなか難しい力学を用いた人体
動作シミュレーション,高解像度のデータやKINECTなどの手軽なデバイスが利用
可能になった顔アニメーション,計算量が多い流体力学,形状変形のシミュレーシ
ョン,服アニメーションといった分野が大いに盛んである.イメージ,ビデオ関係
はCVPR等に基礎的な論文は行ってしまうのか,応用的な論文が多い.レンダリング
関係はアメリカのシーグラフよりも少ない印象である.
 論文の質はやはりシーグラフだけあって高いが,面白いと思ったものとしては以
下の論文があった.

Level-Set-Based Partitioning and Packing Optimization of a Printable Model
三次元物体を分解してパッキングするもの.3Dプリンティングが色々とグラフィ
ックスにも新たな研究方向をもたらしている.
 
Data-driven Fluid Simulations using Regression Forests Random Forest
という回帰手法を用いて流体シミュレーションを行った研究.回帰を用いれば計算
の量の多い,流体力学も早く計算できる.Random Forest は弱学習器を大量に組み
合わせた機械学習の手法で,KINECTの姿勢推定でも使われている.物理シミュレー
ションも機械学習の時代とは驚かされる.

Capturing the human figure through a wall
壁の向こう側の人体の姿勢を電磁波を解析して推定する研究
電磁波を用いた通行人の人数の研究が現在流行っている.これは壁の向こう側の人
間の姿勢を推定するというのでびっくりである.

Joint Embeddings of Shapes and Images via CNN Image Purification
画像認識の分野で流行っている深層学習の手法であるConvolutional Neural
Networkを用いて三次元物体とそれに対応する画像を空間に埋め込む研究.こうす
ることによって画像をキーとして三次元物体を検索したり,逆に三次元物体をキー
として画像を検索できる.深層学習の波がまもなくグラフィックスも飲み込みそう
である.

A Chebyshev semi-iterative approach for accelerating projective and
position-based dynamics
弾性体シミュレーションの手法でProjective Dynamicsというのが”Fast
Simulation of Mass-Spring Systems”という3年前の論文で開拓されて流行ってい
るが,この論文ではChebyshev法というこれまで注目されていなかった手法で
Projective Dynamicsの収束を速くしている.

 もう一つ不満なのは論文集がデジタルでもまったくないことである.ACMのウェ
ブサイトで無料でダウンロードできるというが,一つの論文をダウンロードするの
にマウスのボタンを三回はクリックしなければならず,全部ダウンロードするのに
は252回もクリックする必要がある.HCIを重要視しているSIGGRAPHとしては由々
しき問題である.ぜひUSBメモリーに論文をコピーして配るべきである.
 アジアであるためか,中国人の発表が多かった.SIGGRAPHASIA本部のデータによ
ると,中国の大学がメインの論文は12ということであるが,実際にはもっと多い印
象である.中国人研究者が北米やヨーロッパで働き,中国の大学と協力して発表す
る論文やアメリカの大学で学位をとっている中国人学生の論文も多数あった.論文
の著者を重複も含めて全部数えてそのうち中国人風の名前を数えると三分の一弱ほ
どあった.
 とはいえ時代はボーダーレスであり,興味や分野が一致するなら,どことでも誰
とでも研究するべきである.日本人の研究発表も多数あったが外国の研究機関とや
っている研究も多い.どこの国が,などと言っているのは無意味なのだろう.

【公式サイト】
http://sa2015.siggraph.org/en/

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